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東京家庭裁判所 昭和43年(家)4112号 審判 1973年11月24日

四一一二号申立人 斉藤アキ(仮名)

四一一三号申立人 斉藤明夫(仮名) 外一名

相手方 松本かつ子(仮名) 外一名

主文

一  (一) 相手方両名は共同して申立人斉藤アキに対し財産分与として金六〇万円を支払うべし。

(二) 別紙遺産目録のうち五の有体動産は財産分与として申立人斉藤アキに取得させる。

二  (一) (イ) 別紙遺産目録の一の借地権のうち図面ABEFAの各点を直線により結ぶ線を以て囲む土地の借地権並びに同目録の二及び三の建物は相手方松本かつ子、同真知子の共有(各共有持分かつ子五分の三、真知子五分の二)による取得、

(ロ) 目録のうち四の電話加入権は相手方かつ子の取得、

(ハ) 目録一の借地権のうち図面BCDEBの各点を直線により結ぶ線を以て囲む土地の借地権は申立人斉藤明夫、同森田宏子の共有(持分各二分の一)による取得とする。

(二) 申立人斉藤明夫、同森田宏子は共同して相手方らに対し清算金として金四九万九三七七円を支払うべし。

(三) 相手方ら両名は申立人斉藤明夫、同森田宏子に対し目録二の建物のうち前記(一)(ハ)の土地上に存する部分を収去せよ。

(四) 申立人らは相手方らに対し目録のうち三の建物を明渡すべし。

理由

一  (申立人斉藤アキの申立)

申立人斉藤アキは、相手方らから同申立人に対し財産分与として金一〇〇万円を支払うべしとの審判を求めた。その理由は次のとおりである。

斉藤アキは昭和三〇年一二月九日松本清司と妻の氏を称する婚姻届出をして結婚した。これより先松本清司は大正一三年四月三〇日相手方かつ子と婿養子縁組婚姻し、相手方松本真知子はその間に出生した子であるが、清司とかつ子は昭和三〇年一二月八日届出により協議離婚したものであつたところ、かつ子は清司を相手方として右協議離婚無効確認の訴を提起し(東京地裁昭和三二年(タ)第一五四号)、これに対し清司はかつ子を相手方として予備的に離婚請求の反訴を提起し(同地裁同三五年第八八号)、右事件につき同三七年一〇月二日本訴並びに予備的反訴何れも認容の判決があつたところ、清司は同月二一日死亡し、右協議離婚無効確認(本訴)の部分は同月一九日確定したが、離婚請求認容部分(予備的反訴)についてかつ子は控訴し(東京高裁同三七年(ネ)第二三六四号)たものの清司・前記死亡により訴訟は終了した。そこでかつ子は申立人斉藤アキを相手方として、清司と重婚であるとして、婚姻取消の訴を提起し(同三八年(タ)第三四九号)、同三九年一月三〇日右請求認容の第一審判決があり、ついでこの判決に対する斉藤アキの控訴(東京高裁に繋属)は棄却され、右第一審判決は同四〇年一二月二五日確定した。従つて斉藤アキと清司との婚姻は取消により終了したところ、前記のとおり清司は死亡したので同人の相続人である相手方両名に対し民法第七四九条第七六八条により財産分与として金一〇〇万円の支払を求める。

二  (申立人斉藤明夫、同森田宏子の申立)

申立人明夫は斉藤アキと清司の間に生れた子であり、申立人宏子は昭和三四年三月四日清司と養子縁組した養子である。清司は前記のとおり死亡し、遺産相続が開始したから遺産分割を求める。相続人は右申立人両名と相手方両名の四名であり、遺産は別紙目録のとおりである。(斉藤アキは昭和四三年一二月末までに遺産建物を賃貸した賃料収入として合計金九一万円を収取している。一方同人は遺産建物につき水道・電気・ガス料のかつ子とその家族使用分を負担して来た。これらは諸般の事情として本件審判において斟酌して貰いたい)。

三  (相手方らの主張)

(一)  清司とかつ子の協議離婚届出は斉藤アキが文書を偽造して提出したものであり、また後に裁判により取消された重婚も斉藤アキの右犯罪行為につづく違法行為である。このように斉藤アキは重婚が裁判によつて取消されたのであるから同人に財産分与請求は認められない。

(二)  清司の遺産の範囲については争わない。しかし申立人斉藤明夫は清司の子ではない。また申立人宏子が清司と養子縁組したことになつているが清司はそのような養子縁組をしたことはない。以上の事実は清司が生前述べていたところである。そうであれば申立人らは清司の相続人ではないから本件遺産分割の申立は不適法である。

四  (判断)

(一)  (財産分与について)

清司とかつ子が婿養子縁組婚姻し、その間に真知子が出生したこと、清司とかつ子との協議離婚届出書が提出されたこと、清司と斉藤アキが婚姻し、その間に明夫が出生し、清司と宏子が養子縁組したこと、右協議離婚無効及び清司と斉藤アキの婚姻取消の訴が提起され、その判決が確定したこと、清司が死亡したこと、以上に関する申立人らの主張事実は記録(各戸籍謄本、判決の写、その他)により認められる。

ところで、記録(特に斉藤アキ、松本かつ子審問)によれば「かつ子と清司夫婦の仲は昭和二一年頃既に折合いが良くなかつたところ、その頃から一層冷却し、妻のかつ子は夫である清司の世話をしなくなつてしまつた。その頃清司は斉藤アキと知合い、はじめはアキがお手伝いの形で清司の身の廻りの世話をしていたが、やがて両名間に清司がかつ子と離婚した上で結婚することの約束ができて、清司とアキは夫婦と同様の間柄となり、アキは清司の世話をして来た。そして清司とかつ子の協議離婚届出書の提出についで、清司とアキの婚姻届出があり、両名は夫婦生活を営んだ。」ことが認められる。そして右協議離婚届出はアキとその兄が長野県下の所轄役場に提出したものであることは乙第一号証(斉藤照夫の陳述記載)、斉藤アキ審問により認められるが、右届出書は斉藤アキにおいて偽造したものと認めるに足りる証拠がないから、その旨の相手方らの主張はたやすく採用できない。のみならず重婚の取消があつた場合民法第七四九条第七六八条により、その一方は他方に対して財産分与を請求できるところであつて、斉藤アキから清司に対して違法行為があつたことが明認できるわけでもなく、本件においてはアキの清司に対する財産分与請求権に影響はない。そうするとアキと清司との右婚姻終了に基づく右財産分与請求につき一切の事情を考慮して分与させるべきかどうか並びにその額、方法を定めることができる筋合であるから以下これを検討する。

前記認定事実並びに記録によれば、清司とかつ子との婚姻関係が荒廃していたけれども、斉藤アキとの婚姻によつて、清司の生活は精神的にも日常面でも慰められていたこと、このことは清司の晩年の財産の保持に少くも役に立つていることを充分窺うことができる。そうであつて見れば、婚姻解消によりアキは清司に対し幾何かの財産分与を求めうべきものであつて、一切の事情を考慮すると、清司の死亡に基づき、同人の承継人である相手方両名は共同してアキに対し財産分与として金六〇万円を支払うべきものとし、且つ遺産目録中、五の動産を同人に分与するのが相当である。(明夫・宏子も清司の相続人として同人の義務を承継するが、アキの請求に基づき相手方両名に対してだけ本件財産分与を命じることは許されるものと解する。)

(二)  (遺産相続について)

(1)  松本清司が昭和三七年一〇月二一日死亡したことにより遺産相続が開始した。同人の遺産の範囲については、別紙目録の通りであることは関係人間に争がなく、記録を調査してもその通りであることが認められる。相続人の範囲について相手方かつ子(妻)、同真知子が清司の相続人であることは記録上明らかである。相手方らは、その主張欄(二)のとおり明夫と宏子が清司の相続人であることを争い、同人らの本件遺産分割申立は不適法であると主張するが、記録にある、公文書たる戸籍謄本によれば、明夫は清司とアキの間の嫡出子であることの推定をうけ、また宏子は清司の養子である旨記載されているところであつて、記録を調べてみても右嫡出子の推定及び養子縁組が適法になされたことの推定を覆へし、これを否定するに足りる特段の事情があるものとは認められない。従つて、申立人明夫、同宏子は清司の相続人であつて、本件遺産分割の申立が不適法であるとはいえない。してみると相続人かつ子の相続分は九分の三、真知子、明夫、宏子の相続分は各九分の二となる。

(2)  別紙目録の物件のうち五の動産は前判示のとおりアキに財産分与することとしたから、遺産分割すべき遺産は目録中、一の借地権、二、三の建物所有権、四の電話加入権である。そこでまず右借地権、各建物の位置、形状、価額等を検討するに、記録(就中不動産鑑定評価書)によれば、次のとおりである。「右借地権、各建物の位置、形状は添付図面記載のとおりである。目録一の借地権価額は金一九〇七万七三〇〇円であつて、そのうち(イ)図面ABEFAの各点を直線で結ぶ部分(三〇二・六〇平方メートル)の価額は金九八四万九三〇〇円、(ロ)図画BCDEBの各点を直線で結ぶ部分(二九六・七二平方メートル)は金九二二万八〇〇〇円であり、(ハ)目録二の建物の価額は金一七万七〇〇〇円、(二)同三の建物のそれは金三三万八一〇〇円である。」また目録四の電話加入権の価額は申立代理人において少くも金四万七〇〇〇円であると主張し、他に特段の事情も認められないから、その価額は金四万七〇〇〇円と推認される。そうすると、分割すべき遺産の価額は合計

金一九六三万九四〇〇円となる。そこで各相続人の相続分を計算し、本件遺産の種類、形状、現況、各相続人の間柄その他一切の事情を斟酌するときは、前記(イ)の借地権(三〇二・六〇平方メートル)及び(ハ)(二)の各建物(目録二、三)を相手方かつ子、同真知子の共有(各共有持分かつ子五分の三、真知子五分の二)による取得とし、電話加入権をかつ子の取得、前記(ロ)の借地権を申立人明夫、同宏子の共有(持分各二分の一)による取得とするのが相当である。ただ右計算によると、申立人明夫、同宏子が共有取得する分は相続分より金四九万九三七七円多過ぎるから清算金として右申立人両名から共同して相手方両名に金四九万九三七七円を支払わせ、且つ目録二の建物のうち、右申立人ら取得の借地上に存する部分は相手方らにおいて収去すること、申立入ら三名は本件遺産分割により本件建物利用権を失うことになるから、相手方らに対し目録三の建物を明渡すべきものである。(本件不動産の評価は昭和四四年になされたから現在の価額と必ずしも一致しないであろうが、本件は不動産取引の目的に出るものではなく、財産分割の基準にすぎないから、これを用いることとした。)

(3)  よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 長利正己)

(別紙目録編略)

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